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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)616号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人海野普吉、同坂上寿夫の上告趣意及び追加上告趣意について。

記録(弁護人提出に係る福岡郵便局作成の回答書を含めて)を精査するに、原審は第一回公判期日を昭和二五年一二月一日と指定し、これが召喚状は同年一一月一四日被告人に対し別府市上田の湯二三伊東信介宛の書留郵便に付して送達したのであるが、被告人は右公判期日に出頭しなかったので、更に同二六年二月七日の第二回公判期日を指定しその召喚状を同二五年一二月一九日被告人に対し前同様の宛名を以て、書留郵便に付して送達したにも拘わらず、右期日にも被告人は出頭しなかったのである。ここにおいて原審は被告人不出頭のまま事実審理を終了し、結審の上判決言渡期日を同二六年二月一四日と定め、該期日に原判決を言渡したものである。弁護人は右公判期日の召喚状の送達につき裁判所書記官の作成した送達報告書(記録三〇二丁、及び三〇四丁)にはいずれも単に「郵便に付して」とあるに対し、言渡期日の召喚状の送達についての報告書(記録三〇七丁)には特に「書留郵便に付して」と記載されてあることから、公判期日の召喚状だけは普通郵便に付してなされたものの如く主張するのであるが、福岡郵便局作成の回答書によれば該召喚状も亦書留郵便に付して送達せられたものであることが認められる。そして被告人は第一審において保釈決定を受け、その制限住居を別府市上田ノ湯二三番地と指定されていたのであり、その住居が、被告人提出にかかる昭和二六年二月二三日付住居変更届に基ずき原審において同年三月六日東京都武蔵野市吉祥寺三七一番地と変更せられるまでは前記別府市上田の湯二三番地に居住していたものと認められる。しかるに被告人において、原審に対し、その所在地に住居又は事務所を有する者を送達受取人に選任しその者と連署した書面を以てこれが届出をなした証跡は存在しないのであるから、原審においては、旧刑訴七六条により被告人に対する書類の送達は郵便に付してなすことを得た筈である。そしてこの送達は書類を郵便に付した時を以てこれをなしたものと看做されるのであるから、所論公判期日の召喚状の送達はいずれも適法になされたものといわざるを得ない。従って被告人が、右二回の公判期日にいずれも何等正当の事由を届出でることなくして出頭しなかったことに基ずき、原審が旧刑訴四〇四条に従い被告人の陳述をきかず結審の上判決を言渡したからとて、これを目して違法であるということはできない。尤も右公判期日の召喚状は、いずれも「受取人不明」との事由の下に原審に返戻されたものの如くであり、被告人が右公判期日に出頭しなかったこともその召喚状が被告人に到達しなかったためであると認められないわけではない。しかし、郵便に付する送達は「書類ヲ郵便ニ付シタル時ヲ以テ之ヲ為シタルモノト看做ス」と定めた旧刑訴七六条二項の規定は、予めその書類が到達しないような場合をも考慮し、かかる場合においてもなお送達の効力を認めんとするものであることは多言を要しないところである。けだし法律は同七五条所定の届出義務を懈怠したものに対する送達は、その書類を、通常の場合においては必ずや到達するであろうことを期待し得る郵便に付せば事足るのであって万一その書類が到達しないようなことがあっても、それはかかる義務の懈怠者において、止むを得ない稀有の不利益として甘受すべきものとし、以て訴訟手続の円滑な進展を計ったものに外ならないのである。されば所論公判期日の召喚状が、たとい被告人に到達しなかったとしても、これにより原判決に所論のような違法があるとはいい得ないのであり、この点に関する所論は採用に値しない。なお論旨末尾の所論は、事実審たる原審の裁量に属する刑の量定を非難するに帰し上告適法の理由とならない。

よって刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条により裁判官全員一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔)

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